【1】特別控除(措置法25の2)
青色申告による最大のメリットはこの特別控除です。
所得税は通常、「収入ー経費=利益」により求めた利益に対して税率をかけて税金を計算します。
この特別控除を利用すると「収入ー経費ー特別控除=利益」として利益を求めます。
つまり、特別控除分だけ利益が減少するため、税金を安くすることができます。
特別控除の額は、10万円、55万円、65万円の3種類があります。
65万円が最も有利ですが、適用を受けるための要件も当然厳しくなります。
控除額 | 所得の種類 | 期限内申告要件 | 複式簿記での経理 | 貸借対照表の添付 | 電子申告要件 |
10万円 | 不動産所得 事業所得 山林所得 | なし (期限過ぎてもOK) | 必要なし (会計システムを使う必要なし) | 必要なし | なし(紙でも電子でもOK) |
55万円 | 不動産所得 事業所得 | あり (期限すぎるとダメ) | 必要あり | 必要あり | なし(紙でも電子でもOK) |
65万円 | 不動産所得 事業所得 | あり (期限すぎるとダメ) | 必要あり | 必要あり | あり(電子申告のみ) |
【2】純損失の繰越(所法70)
これは当年に生じた損失を翌年に繰り越せる制度です。
例えば、
2019年の所得:ー60万円(60万円の赤字)
2020年の所得:100万円(100万円の黒字)
この場合2020年の所得は100万円ー60万円=40万円とすることができます。
なお、この赤字は発生した年から3年間繰り越すことができます。
上記の例でいうと2019年に生じた赤字は2022年分まで使うことができます。
2020年の所得:10万円 10万円ー10万円=0円(残損失50万円)
2021年の所得:20万円 20万円ー20万円=0円(残損失30万円)
2022年の所得:20万円 20万円ー20万円=0円(残損失10万円)
この場合2023年に残損失10万円は使えません。
【3】少額減価償却資産の必要経費算入(措置法28の2)
10万円以上の減価償却資産(建物、車両、機械、備品)を購入した場合には、購入した年から法定耐用年数で各年必要経費に算入しなければなりません。
しかし、少額減価償却資産の特例を使うと、購入した年に全額必要経費に算入することができます。
【4】親族への給与の必要経費算入(所法57)
親族への給与は原則として経費になりませんが、青色申告書を提出し、一定の要件を満たす場合には、必要経費に算入することができます。
要件① | 営む事業が、不動産所得、事業所得または山林所得に該当するものであること |
要件② | 青色事業専従者給与に関する届出書を適用を受けようとする年の3月15日までに提出していること |
要件③ | 青色事業専従者に支払われる給与であること |
要件④ | 要件②で提出した届出書に記載した金額の範囲内で支払われた給与であること |
要件⑤ | その給与の額が、労務の対価として相当であると認められること(不相当に高額でないこと) |
<青色事業専従者の要件など詳しくは今後記事にする予定。>
【5】純損失の繰戻還付(所法140)
昨年は黒字だったため所得税を納めていたが、今年は赤字であった場合、その黒字と赤字を相殺して昨年払いすぎた所得税の還付を受けることができます。
【6】貸倒引当金の必要経費算入(一括評価)(所法52②)
年末における売掛金や貸付金の5.5%を必要経費に算入することができます。
なお、翌年には当該計上額を戻し入れる必要があるため、翌年の所得は増加します。
(翌年も年末の売掛金、貸付金の5.5%を必要経費に算入することができます。)
【7】家事関連費の必要経費算入(所法45、所令96)
家事関連費とは、家事費(プライベート費用)と事業用費用が混ざったものです。
例えば、自宅兼事務所の家賃・電気代・インターネット代、ガソリン代などです。
白色申告の場合には、家事関連費の主たる部分(50%超)が業務遂行上必要でその区分が明らかになっている場合でないと必要経費に算入することができません。(ただ厳密に言うと、事業に必要な部分を区分さえされていれば認められると通達上なっています。)
青色申告の場合には、業務の遂行上必要であったことが明らかにされる部分については、必要経費に算入することができます。
つまり、青色申告の場合にはちょっとでも事業に関連していればOKということですね。
※事業所得、不動産所得、山林所得、雑所得の計算上です。
【8】棚卸資産の低価法による評価(所令99)
商品を仕入れて売る業種の場合、事業所得の計算上、売上原価というものを計算する必要があります。
売上原価=期首商品棚卸高+商品仕入高ー期末商品棚卸高
売上原価に必要な項目3つのうち、下記2つについては、特段計算はいりません。
・期首商品棚卸高は前期に計算した期末商品棚卸高
・商品仕入高は今年仕入れた商品の仕入額
残りの期末商品棚卸高については、原価法(6種類あります)という仕入高に基づいて一定の方法により計算を行います。
青色申告をしている事業者については、低価法という評価方法を選択でき、当年末日の時価が原価法により評価した金額を下回っている場合には、その当年末日の時価を評価額とすることができます。
【9】現金基準(所法67、所令196)
本来収入は実現主義、費用は発生主義で計上しなければなりませんが、青色申告者で小規模事業者に該当する場合には、現金主義(収入は入金時、費用は支出時に計上)によることができます。
小規模事業者とは、前々年の不動産所得、事業所得の金額の合計額が300万円以下の事業者を言います。
要件① | 不動産所得、事業所得であること(雑所得はダメ) | ||
要件② | 前々年の不動産所得、事業所得の金額の合計額が300万円以下であること | ||
要件③ | 青色申告であること |
【青色申告の取り消し(所法150)】
(1)帳簿書類を提示しない場合
税務調査の際に、帳簿書類の定時を求められたにもかかわらず、その提示を拒否した場合です。
提示がされなかった年分のうち最も古い年分以後の年分について、その承認が取り消されます。
(2)税務署長の指示に従わなかった場合
帳簿書類の備え付け等について、所法148条2項の規定による税務署長の指示に従わなかった場合です。
その指示に係る年分以後の年分について、その承認が取り消されます。
所法148条2項 納税地の所轄税務署長は、必要があると認めるときは、青色申告の承認を受けている居住者に対し、その者の業務に係る帳簿書類について必要な指示をすることができる。
指示とは、帳簿書類の保存の仕方、記帳の仕方について、納税者に対して「こーしてください」「あーしてください」という指示です。
(3)隠ぺい、仮装等の場合
無申告のために所得金額の決定をした場合又は所得金額の更正をした場合において、
その年分のその決定又は更正後の所得金額(更正所得金額)のうち
隠ぺい又は仮装の事実に基づく所得金額(不正所得金額)が、当該更正所得金額の50%相当額を超えるとき(不正所得金額が500万円に満たないときを除く)
例えば、以下の場合には取り消されることとなります。
(ア)当初所得:1,000万円
(イ)更正所得:4,000万円
(ウ)不正所得金額:2,500万円
不正所得金額2,500万円 > 更正所得金額4,000万円×50%=2,000万円
不正所得金額2,500万円 ≧ 500万円
(4)無申告又は期限後申告の場合
2年連続して期限内(3月15日まで)に申告書の提出がない場合です。
その2年目以後の各年について、その承認が取り消されます。
(5)相当の事情がある場合の個別的な取扱い
青色申告の制度の趣旨から真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められる場合です。
上記以外でも変なことしてたら取り消しますよという感じですね。
(6)電子帳簿保存承認が取り消された場合
帳簿書類等を紙保存でなく電子保存していた場合に、その電子保存が取り消された場合です。
この場合、青色承認の取り消しに当たっては、電磁的記録に代わる紙等による備付け又は保存の有無とその程度、電磁的記録の今後の出力と保存の方法、真に青色申告書を提出するにふさわしいと認められるかどうか等を検討した上で取り消すかどうかを判断することとなります。
簡単にいうと直ちに取り消すわけではなく、状況等を総合的に見て判断するということです。
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